Oxford Circus 

ある日の午前中、今日は外に出てドローイングしましょう、という事になった。
グッジストリートからオックスフォードストリートまで歩いて、そこで散り散りになる。オックスフォードサーカスの交差点はロンドンの大動脈を結いで、絶え間なく往きかう人々で慌ただしい。
一通りの素描をして向こうを見やると、Michaelが遠目にも退屈そうに突っ立っているのが見えた。私は彼の方へ交差点を渡る。
How's it goin'?
こんな人混みじゃ、目が回っちまうだけさ、とMichaelが言う。それもそうだ。じゃ、コーヒーでも飲みに行こうか?
私達二人はトテナムコートロードの方へ少し行った所にあるカフェへと歩き出す。
と、そこに、とあるショッピングモールの前で同じ学校のブラジル人女が地べたに座ってスケッチブックを睨んでいるのを見付けた。
――How's it goin'?
いや、どうせ上手くはいってないさ、とMichaelが耳打ちする。
彼女はおもむろに立ち上がって言う。
――もう喉がカラカラよ。

後になって自分のスケッチブックを開いて見ると、無数の人々の動きとオックスフォードサーカスの雑なドローイングが、互いにぐちゃぐちゃになったまま重なり合っていた。