オストライヒ

都内にある地下のスタジオでレコーディング中だという彼に会った。そのほんの少し前にありきたりなカフェで会った時と、少し様子が違うなと思った。
――居る筈の場所に居る――
雑に言えば、そんな当たり前な感じだ。
しかし他人が当たり前と思っている場所にどうにかしがみついて居る切ないつらさは所詮、他人にはわからない。そのくせ、その人が何とか絞り出したものに手前勝手な推量を押し重ねてみて、わかった振りをする。

彼には見せたい世界があるんだろう。同時にそこは誰も踏み入れさせたくない彼だけの秘密の世界でもありそうだ――ああ、たしか初めに会った時にそんな話、したっけな。
きっと彼は自分が大事なのではなくて、自分の世界が大事な種の人間だ。それは他人が思うより、実は、ずっと非情な事だ。

自分は彼の様な人間を、本当の意味で信用に値すると思っている。