伝えたいばっかりに

目の前には田が広がっていて、遠くで鳥除けの小さな風車が南風に音を立てている。光を受けた田や草が眩しい。
消失点がないこの風景のどこから鉛筆の先をつけたら良いのか見当もつかずに、スケッチブックを開いたまま只テラスでそんな風景を見つめていると、あるはずの思いも焦点を失くしていく。

電車のないこのバリ島で、バリの知人達は一度電車という乗り物に乗ってみたいと言う。地上の下をひっきりなしに走る電車や、時速300キロで走る電車がどんなものなのか、言葉ではうまく伝えられない。それと同じく、この島の風景を、バリに来たことのない人にも伝えられない。

気が付くと、いつの間にか広がった雨雲がスコールを運んできて、遠くのモンキーフォレストの上に透明な暗影をつくっている。やがて一時激しい雨が降るんだろう。